広報資料ではレトロという言葉が多用されているし、外装部品にはカスタムパーツ的な趣向が盛り込まれているものの、XSR900は“現代のスタンダード”と言いたくなるスポーツバイクである。逆にこのモデルを体験すると、すでに市場で好セールスを記録している2台の兄弟車は、スタンダードではなかったのだなあ・・・という気がしてくるわけだが、だからと言って僕の中に、スーパーモタードテイストが注入されたMT-09と、ツーリングでの快適性を重視して開発された同トレーサーを、否定しようという意識は微塵もない。むしろ現在の心境としては、エンジンとシャシーの基本設計を3車で共有しながら、見事に各車各様の味付けを行ってきた、ヤマハの懐の広さに感心しているくらいだ。
とはいえ、不特定多数のライダーを対象として考えた場合、僕が自信を持ってオススメしたいのはXSRである。シートはちょっと高いけれど、車重が軽くて前後サス設定がフレンドリーなこのモデルは、ヤマハが言うクロスプレーンコンセプト、並列3気筒ならではのトラクションを誰もが気軽に満喫できる仕上がりになっているのだから。と言うより、エンジン形式や2台の兄弟車との比較は抜きにして、ここまでトラクションが濃厚に感じられるバイク、スロットルの開閉が快感に直結するバイクは、世界広しと言えども、なかなかないのではないかと思う。
誠にベタな表現になるのだが、XSRにはオートバイの原点的な魅力が備わっていて、どんな場面でも乗り手を幸せな気分にしてくれる。事実、このバイクを試乗している最中の僕は、終始ニコニコ顔だった。
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