東○海平の投稿検索結果合計:45枚
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2020年03月21日
41グー!
ラジオを聞きながらの朝の仕込み。
前日に仕入れた食材を整理し、開店前の準備を進めていく。
「今日はミネストローネにしよう」
大量に買ったトマトを見ながら1人呟く。
「~♪~♪」
ラジオのトークと音楽を聞きながら鼻歌を乗せる。
窓から差し込む日だまり、コトコトと音を立てる鍋、傍らのデミタスコーヒー。
ラジオが11時の時報を伝える。
「ーーさてと」
俺はそれを聞き、店の入り口に移動。
店先のVTR1000SP2のカバーを引っぺがす。
黒い車体に太陽が反射する。
「うん、良き良き」
入口の看板をひっくり返す。
Vistro Vonaparte ouvert
さぁ、今日も開店だ。
店の外にバイクが停まる。
「うぃーす。マスターおはよう」
常連のケイゴがメットを腕に提げ店に入ってくる。
「いらっしゃい。ご注文は?」
「クロックムッシュとブレンドで」
「あいよ~」
注文のメニューを作っていく。
「スープ飲むかい?」
「良いね。今日は何出してくれんの?」
「ミネストローネ」
「おお良いじゃん! 貰うわ」
温めていたスープを出す。
「うまっ!」
「だろう! 新鮮なトマトが手に入ったんよ」
料理を進めていく。
「今日はバイク出してるんだね」
ケイゴが店先のVTRを見ながら尋ねる。
「おう。今日は昼の休憩時間に走ろうと思ってな」
「へぇ~」
窓の外を眺めるケイゴにクロックムッシュとコーヒーを出す。
「ウハッ! やっぱマスターのヤツは美味いね!」
ケイゴの頬張る姿を見て、俺も外に視線を移す。
また1台、店のバイクが停まりライダーが店に入ってくる。
「いらっしゃいま……」
俺は喋っていて言葉に詰まった。
そこに居たのはーー
俺はその昔、ロードレースに出ていた。
幼い頃からバイクに乗り、一進一退の勝負を重ねて1歩ずつ上へと昇格していく。
血反吐を吐くほどに努力し、ようやく年間タイトルに手が届くという所まで行った。
スポンサーも付いた、安定とは言えないが大きな金が手に入るようになった、そして当時付き合っていた彼女ともゴールイン間近
ただ、ひたすらに勝利を求めて闘ってきて、ようやく本当の意味での勝利を掴みかけていた……
そんな時にーー
「うわぁーッ!多重クラッシュだ!23番チーム○○! サカモトォ!」
俺はコケた。
それも周りの複数台を巻き込んでの派手なハイサイド。
俺は錐揉みになったバイクの下敷きになった。
「……あぁ」
気付けば病院のベッドの上、選手生命の断絶を余儀なくされる程の大怪我だった。
だが俺は諦めなかった。
また血反吐を吐くような努力と、身を削るようなリハビリをした。
「やめてよ!」
見かねた彼女の言葉。
そんな彼女をはね除けて、俺はまた ひたすらに勝利を求めた。
もう一度あの場所へ!
「お前は見てろ! 俺は立ち上がる!」
何より彼女の為……と。
全てを自分すらも犠牲にして努力。
そしてそんな生活を数年続けて。
「23番サカモト、今チェッカーフラグ!」
俺はもう一度、レースに帰ってきていた。
昔日の身体能力を取り戻し、再び勝利をこの手に掴もうとしかけていた。
これでようやく。これでやっと…彼女に……
俺は彼女の待つ自宅へと帰る。
「………」
家には誰も居なかった。
《ごめんなさい。もう疲れちゃった》
有ったのは書き置き。
「ははは」
思わず渇いた笑いが出た。
全てを犠牲にした勝利、彼女すらも犠牲にしての勝利だった。
俺はタイトルを獲得した。
喉を掻き毟るほどに欲していたソレを手にした
「ーーー」
手の中のソレはーー
俺はそれを最後にロードレースを降りた。
そして地元に戻り、知り合いの伝で飲食業を始めた。
多少の苦労は有ったが、元チャンピオンライダーという肩書きは大きく、程なくして安定した。
後は たまに舞い込んでくる新型バイクのインプレッションで生計を立てる。
波乱万丈ではあったが、終わってみれば順風満帆。
もはや勝利も何も無い。
「ホノカ……」
俺は店に入ってきた女の子を前に、思わずその名を呼ぶ。
昔日の彼女が居たのだ。
「クロックマダム、カフェラテ」
そんな俺を尻目に、彼女がカウンター座り憮然とオーダーを投げつける。
「ーーあ、はい。少々お待ちを」
混乱する頭。
思わずケイゴに目配せ。
「じゃご馳走さま」
ケイゴが状況を察し、お代を置いて出ていく。
ーーマジか。
「………」「………」
パンと目玉焼きを焼く傍ら、カウンターの彼女を見る。
アンニュイな表情、その瞳は店の外のバイクを見ていた。
俺の黒いVTR1000SP2の横に並ぶは
黒いVTR1000F。
「カフェラテです」
彼女にカフェラテを出す
「…どうも」
彼女の目は外に向いたまま。
どういうことだ。
彼女が出ていったのはもう20年近く前、だとすれば娘か?
「まずいまずい」
とりあえずクロックマダムを作ることに専念する。
そして。
「お待たせしました」
クロックマダムを彼女に出す。
俺も彼女も何も喋らない。
レース前の静けさにも似た、なんともむず痒い感覚。
久しぶりにソレを感じた。
「あの…えっと。VTR1000Fカッコいいね」
引きつった笑みを浮かべ彼女に話しかける。
「ありがとうございます。そちらのSPもカッコいいですね」
「…ありがとう」
会話が途絶える。
気まずさに、とりあえず店のグラスを磨く。
20歳前半の女の子に、40過ぎのおっさんがオドオドしている。
なんとも情けない話だ。
「あの」
彼女が私に視線を移した。
「昼休み、予定有りますか?」
彼女が俺に尋ねる。
「んあぁ、これといって無いよ?」
思わず声が上ずる。
「……待ってます。ご馳走さまでした」
彼女がお代と共に写真を置いて出ていく。
俺は呆気にとられ、去っていく彼女を眺めてしまう。
彼女がVTRに跨がり、ミットを叩くようなパルスを響かせ走り去っていく。
「……て、違う!」
置かれたお金と、写真を確認。
そこには桜が写っていた。
「マジか」
桜。その桜は俺が昔日にデートで何度も眺めていたモノ。
昼休みなど待ってられない!
俺は店の看板をひっくり返し、SP2に火を入れる。
荒ぶるように怒れるVツインサウンドが雄叫びを上げる!
「ワクワクするじゃねぇの」
E/Gの暖気と共に俺の心にも熱が入る。
勝利を求めた
ただソレのみを願った
その果てに俺は今
勝利は目前
あとは進むだけだ
#VTR1000SP #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #Vツインにお熱 -
2020年03月19日
41グー!
夜も更け、もう店を閉めようかというところで電話が鳴った。
「はい。忠夫飯店でございます」
「もしもし! 俺ばってんが!」
早口でまくし立てる口調で名乗られる。
「あぁ、ヒデオさん。どうかされました?」
常連のヒデオさんからだった。
「まだ店やっとんね?」
「すいません……。もう閉めようかと…」
「なら良かった! ちょっと頼みが有っての。頼まれてくれんかね?」
「……はぁ」
とりあえずヒデオさんの話を聞く。
さては酔い潰れたか? もしくは飯の配達か……
「人がね倒れとっちゃん」
「え?」
「今から言う場所に来てくれんの」
「…はい」
思ったよりも深刻だった。
愛車のドラスタ250に乗り、現場へ向かう。
「人が倒れてるねぇ~」
ヒデオさんはお節介焼きだ。
困ってる人を放っておけない人、家には拾った犬や猫まで居る。
そんな人が、呑気に電話してくるくらいだ。
最悪の状況ではないんだろう……
「しっかし温かくなったな」
さすが4月ともなれば、深夜でも寒くない。
片側2車線の国道2号を走って行く。
途中、右車線を爆音を響かせ数台が通過していった。
青、赤、銀。
一瞬だけカウルが見えて、テールランプの残光と消える。
「速いなぁ…」
元気だねぇ~。
そうこうしてるうちに到着。
「おーい。こっちこっち」
広々とした公園の駐車場にヒデオさんと、バイクの傍らグッタリと腰かけるライダーの兄ちゃんが居た。
「すまんすまん。兄ちゃんが1人でキャンプしてて、心配でのぉ」
1人喋るヒデオさん。
「飯も食っとらんち言うけんね、放っとけんやろ」
傍らの兄ちゃんを見ると、街路灯の光も手伝って青ざめて見えた。
「………」
当の兄ちゃんはなにも言わない。
くっきりと眉間に寄ったシワ。
恐らくは私達を警戒しているんだろう。
無理もない。何せ夜営してたら、いきなりうるさいオッサンに絡まれ、あげく仲間まで呼ばれてるのだから……
「……旅の方ですか?」
私の問いに兄ちゃんが頷く。
「うち、飯屋やってるんですよ。食べに来ませんか?」
ヒデオさんの勢いに乗っかり提案。
兄ちゃんが露骨に嫌そうな顔になる。
「これも旅。旅は道連れ、世は情けですよ」
「そうばい、そうばい。タダオの飯は美味かぞぉ~」
ヒデオさんも畳み掛ける。
「分かりました」
兄ちゃんが折れた。
「では私のドラスタに付いてきて下さい」
ヒデオさんに別れを言って、兄ちゃんのエストレヤと店を目指す。
途中、はぐれてないかミラーで確認。
その姿にはドッと疲れが来ているのが見えた。
「こりゃ腕によりを掛けなきゃね」
店の前にドラスタとエストレヤを停める。
「どうぞ~。いらっしゃいませ~」
入口の鍵を開け、店の照明を点ける。
「……すいません」
兄ちゃんの申し訳無さそうな声。
とりあえずテレビを垂れ流す。
準備の傍ら見れば、探偵ナイトス○ープが放送されていた。
「………」「………」
吹き抜けの厨房で料理を作っていく。
何を作るかは決めていた。
「……この町に来る途中、若いライダーと会ったんですよ」
兄ちゃんがポツリと喋る。
「……そうですか」
兄ちゃんの話を相づちを打ちながら聞く。
旅での出会い
旅のきっかけ
そして今の現状
兄ちゃんの漠然とした澱のようなモノを欠片ながら享受する。
「そうなんですね。じゃ」
一通り話が進み、またナイト○クープもCMに入った所で、私は出来上がった料理を出した。
「鶏カシューナッツ炒めです。ご賞味あれ」
大皿に溢れるほどに盛り付けた渾身の料理。
「……頂きます」
兄ちゃんの目に少しだけ光が見えた。
スプーンで口に運んだのを確認し、次の料理に取りかかる。
「ーーうめぇ」
こぼれる言葉。その言葉に心が温かくなる!
兄ちゃんがスプーンを進めていく。
まずい! このままでは間に合わん!
大急ぎで鉄鍋を振るう。
「はい、チャーハン!」
こんもりと盛ったチャーハンを追加。
「うめぇ」
兄ちゃんがハフハフと息を荒立てながらも感想を言ってくれた。
「ふふふ」
私は もはや笑みを隠せなかった。
これだ。これなんだ!これこそが私の幸せ!
私は片付けの傍ら、頬張る兄ちゃんを眺めた。
しばらくして。
「……ふぅ。ごちそうさまでした」
兄ちゃんが手を合わせる。
「お粗末さまでした」
「ホント美味しかったです」
「ふふふ、そうですか。お口に合って何よりです」
私は満ち足りた気持ちで皿を片付ける。
兄ちゃんが何を言うでもなく、テレビを眺める。
「~~」「~~」
テレビの音と洗い物の音が場を支配する。
「ーーあの」
私は兄ちゃんに話しかける。
「さっきの旅の話ですけど……」
ーーそう断って。
「私の考えを言っても良いですか?」
尋ねる。兄ちゃんは頷いてくれた。
「私は貴方を知りません。……でもね。1つだけ貴方のことが分かります」
「それはバイクに乗っているということ」
私の言葉を兄ちゃんが静かに聞く。
「今の時代、バイクに乗らなくてもどこでも行けます」
「車、電車、飛行機に船。より安全に移動、目的をこなせる手段は幾らでもあります」
「Y○UTUBEを見ればアマゾンの奥地でも富士山の山頂でも時速300キロのクレイジーな世界でも見ることが出来る」
ーーでもーーそれでも。
「貴方と私はバイクに乗っている」
「同じセカイを目と肌と耳で感じている。これって素晴らしいことじゃありませんか?」
兄ちゃんは何も喋らない。
「生きていると色々なモノに縛られます」
「最早自分が何のために生きているのかと 道標 を見失うことだって有る」
「そんな時にするのが、旅なんじゃないですかね?」
「絡まる有象無象から己を解き放ち、自分の居場所、自分の行く先を、道標を確認する」
ーーそれが旅。
……それが見つからなかったら?
兄ちゃんの真っ直ぐな瞳。
ーーその時は。
「周りを見てください。貴方の周りには私達(ライダー)が居ますよ」
「知ってますか? ライダーのメットが簡単に脱げるのは相手と喋る為なんですよ」
兄ちゃんにパインジュースを差し出す。
「バイクも人も1人で立ち続けることは出来ません。もし見失って倒れそうな時は」
おまけで冷蔵庫から胡麻団子も出す。
「支えますよ。時代も地位も全てを飛び越えてね」
バイクに心底惚れてるバカ同士仲良くしましょうや。
「…………なるほど」
兄ちゃんが胡麻団子を食べる。
「すいません。長々と自分語りしてしまって」
まさしく汗顔の至り。支離滅裂なことを喋ったかもしれない。
「……ん?」
ドコドコと聞きなれた音が聞こえた。
店の外が明るく照らされる。
そして。
「おーい。まだやっとるかーい」
ヒデオさんがやって来た。
「酒も持ってきたぞぉ! 喜多屋ぞ喜多屋!」
「えぇ~。酒飲んでどうやって帰るんですかぁ?」
「お前ん家泊まりゃ良かろうもんッ! あ、兄ちゃんもの。今日は帰さんぞ! 面白か話ば聞かせんかッ!」
ヒデオさんが兄ちゃんの横に陣取る。
「んもう~」
絡まれる兄ちゃんを見る。
「これで貴方も私も~♪な~か~ま~♪」
気付けば眉間のシワは消え失せてーー
#DragStar250 #道標 #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #こらぼれーしょん -
2020年03月17日
36グー!
俺RIDE
あとがきのようなモノ
・SV650X
カッコいいですよね☺️
試乗会に行き、乗ってパンフレットまで貰いました。
直4しか乗ったことない僕には刺激的でした(≧ω≦。)
ロードスター買うか、SV買うかで迷いましたが結局は・・・(;´Д`)
薄給サラリーマンを許しておくれ
・FLH1200
前通ってたショップの兄さんがショベルを部品単位で輸入して仕上げてました。
ビンテージの魅力に心が揺らぎました(。-∀-)
継ぐということ、今もあのショベルはスリーテンポを刻んでいるのか?
・999
ドゥカティで1番初めに知ったモデル。
国産車とは一線を画すデザイン、思わず見入っちゃいました(*´ω`*)
峠で遊んでて、後ろから荒々しいサウンドと共に千切られた時は惚れ惚れしましたね🤩
#SV650X #FLH1200 #999 #俺RIDE #東○海平 #カスタムキャスト -
2020年03月17日
34グー!
俺RIDE
あとがきのようなモノ
・VOX
僕と弟の最大の被害者
春夏秋冬で通学に使われ、ヤンチャな友達と2ケツされ、そして兄弟で車に2度カマ掘り😇
今は実家の倉庫で冬眠中。
春が来た❗️ 起きろパ○ラッシュ❗️
・CB400SF
お師匠様が、specⅢにオオニシhmつけてました。
やっぱ400はCBに始まりCBに終わる、バルブが増えた時のアレはたまりません(≧ω≦。)
まさに王道、ガラパゴスキング❗️
出来れば、これからもその神話を続けてほしく思います😁
・WR250R
モトクロス上がりの広島の連れが乗ってました。
オフロードコースをR1よろしく爆走する姿は圧巻でした🤣
連れのヘルメットのGoProの映像を見る。
コイツぁ、頭のネジがトンでるなってね🤪
#VOX #CB400#SF #WR250R #俺RIDE #東○海平 #カスタムキャスト -
2020年03月17日
36グー!
俺RIDE
あとがきのようなモノ
・ZX-12R
僕のハンドルネームの元ネタにもなったバイク
ZZR1400を購入しようとしてたら、結婚を機に降りた先輩から80万(暴利)で譲り受ける。
未だに、その過激な性能をフルには扱えません。
I Love 12R💙 愛しているぞジョナサン😚
・ZZR400
これに乗りたくて中免を取りました。
しかし1台目は3週間で田んぼへ、僅か1年足らずでZZRを2台買ったのは僕くらいではなかろうか🤔
I Love ZZR💚 シルヴィー大好き😚
・インパルス400
1代目のZZRとシルヴィーの間、9ヶ月間だけ所有。
ブレンボとKYBの贅沢なバイク、ダサ坊だった僕を幾度となく支えてくれました。
ヒトミちゃん。あれから5年、貴女はまだ走ってますか?
新しいオーナーとの幸せを心より願ってます🤗
#ZX-12R #ZZR400 #インパルス400 #俺RIDE #東○海平 #カスタムキャスト -
2020年03月15日
49グー!
西暦2040年
日本 広島 宮島SA
「ホントに良いんだな?」
男が目の前の青年に尋ねる。
「来いよ、そのニヤけ面を引きつらせてやる」
青年は毅然として答えた。
爆笑が木霊する。
「結構結構! 了解したよ」
男が傍らに有ったマクラーレン・P1 GTRに乗り込む。
それを見て、青年は傍らに有ったNinja H2に跨がる。
P1とH2のE/Gに火が灯り、双方の爆音が奏でられる。
「生きて帰れると良いな」
男が下卑た笑いを浮かべる。
「はんッ!おっさんこそ車両保険の準備は良いのかよ?」
青年も口角を吊り上げる。
車の窓が閉められる、ヘルメットのシールドが下げられる。
そして、けたたましいブリッピング!
カウントダウンが始まる
5…4…3…2…1…
0!「「ッ!」」
凄まじいスキール音を響かせ、それは始まった!
この始まりは後輩の事故だった。
病院に担ぎ込まれたという後輩に会いに行く。
「すいません……負けました」
包帯でミイラのようになった後輩が申し訳なさそうに喋る。
聞けばバイパスをZX-25Rで走っていたところ、4輪車に煽られたらしい。
後輩も意地になりスピードを上げたが、、、
相手を振り切ることが出来ずに。
「オーバースピードで壁に……か」
俺は後輩の言葉を継ぐ。
「ーーいえ」
後輩が首を振る。
その時、ふと彼の左腕のアザに気付く。
「ーーまさか!」
当てられたのか!?
「……すいません」
苦虫を噛んだような顔の後輩。
そんな彼の肩に手を置く。
「お前が謝る必要なんかねぇよ。……心配すんな」
俺は後輩に声をかけ、踵を返し、病室を後にする。
あの後輩の様子。
おそらく本当に……
「ーーッ!」
煮え滾る感情が渦巻く。
後輩の言葉を元に、件の4輪車を探すことにした。
そして捜索を開始して数日が経った頃、宮島SAに居た友達から連絡が入った。
「居たぜ、あの下品なオレンジの車体。間違いねぇ」
その言葉を聞き、現場へ急ぐ。
そして見つけた。
旧車のたむろする集団の中、偉そうに喋るそいつが居た。
「おい。おっさん」
俺の言葉に おっさんが振り返る。
「あんたの車のこれについて見覚え無い?」
俺はマクラーレン・F1の右の黒い擦り痕を触る。
「ああん? あぁ。ちっと前にとれぇチャリにぶつけたかもな?」
その言葉に友達がイキり立つ!
俺はそれを制止した。そして。
「なぁおっさん、俺と勝負しようぜ?」
おっさんに提案する。
勿論、相手はとり合わない。
だからこそ
「あんたが買ったら、これやるよ」
おっさんに動画を見せる。
そこにはしっかりと悪意を持ってF1が25Rにぶつかる映像が……
「やるな、兄ちゃん。良いぜ、やってやるよ」
おっさんが了解する。
「明日の10時に、またここで」
俺は踵を返す。
これ以上喋っていると俺が殴りかかりそうだった。
「ゴールは!?」
おっさんの苛立った声。しばし考える。
「福岡の古賀SAだ。ここから250キロ。丁度良いだろう!」
俺は振り返らず答えた。
後はアイツを叩き潰すだけだ。
翌日。
本番に向け準備をし、SAに向かう。
おっさんは別の車で来ていた。
あっちもあっちで俺を完膚無きまでに叩き潰す気らしい。
そして、冒頭へ……。
人工筋肉を仕込んだRSタイチのレーシングスーツで、250馬力を超えるH2を操っていく!
ヘルメットのSHOEI X-20のシールドに浮かぶ速度は280キロ越え!
最早何も聞こえない!
高速道路を合間を縫って駆け抜けていく!
P1は はるか後方の点へと化していた……しかし。
「油断は出来ねぇ」
P1 GTRは1000馬力、様々なテクノロジーを詰め込まれたマシン。
そもそも、アイツは後輩を愛車諸共に壊しているのだ!
スロットルを緩めず走っていく!!
シールドにアラートが表示される。
ガス欠が近いようだった。
大急ぎで最寄りの美東SAへ入る!
「速く!早く!」
タンクに入るガソリンを見ながら焦る。
そこへ。
「ーーあっ もう来やがったか」
爆音を鳴らしながらP1が通過していった。
ーーダメだ! 待てない!
俺は給油を切り上げ出発する。
10L足らず、これだけ有れば十分だ!
再び高速へと合流。
ここから先は中国自動車道。
今までの山陽自動車道とは異なり、キツいテクニカルカーブの連続。
スーツのアシストを最大限に利用し、サーキット顔負けのスプーンカーブをパス!
暴れるH2をねじ伏せる!
「ーー!」
前方にP1のテールを捉える。
ヤツもカーブに苦戦しているようだった。
メーターに写る数字は180キロオーバー!
いくら機械が進化しようとも人の力では、どうすることも出来ぬ領域。
しかし!
徐々にP1が離れていく…
おそらくはKERS!
そして僅かなストレートでDRSを使っているのだろう。
「ーー○ソが!」
思わず叫ぶ!
自分の中の雑念を振り払う。
勝つんだ! 後輩の苦しみはこんなもんじゃねぇ! 悔しくないんかッ!
シールドに表示される心拍数が240を超える!
アドレナリンに脳が溺れる。
関門海峡に到達!
吹き荒ぶ橋の上、ギアを落としスロットルを回す!
一瞬車体が浮く、そして凄まじい加速に車体が暴れる。
240…260…280…---
みるみる内にP1のテールに迫る!
そしてそのままP1を抜きーー
「ダメだ!」
沸騰しかけた頭を冷やす。
橋の向こうに見えるは1キロにも及ぶトンネル。
ここで並んでみろ、そのまま当てられ俺は挽き肉となる。
「はぁーはぁー」
空気を貪る。
そして福岡に突入。
残り70キロ。
千切れかけた緊張を繋ぎ直し、数々のカーブとトンネルをパスしていく……
見えるテールランプの煌めきに注意。
そして。
「来た!」
車線が3つに増えた!
最早あとなど無い!
一気にラストスパートをかける!
しかし。
ブオオオォォォンッ!
P1も加速していく。
俺は車線をフルに使い、突破の糸口を探す!
一瞬、カーブでヤツのラインが乱れた。
P1が左に膨らんでいく。
おそらくDRSを切るのが遅れたのだろう。
「!!!」
俺はそれを見逃さずP1の横をぶち抜いて行く!
「ッ」
おっさんがハンドルをこちらに切る!
だが遅い、そしてそれは余りにも致命的!
キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル!
凄まじいスキール音を響かせてP1がベ○ブレードよろしくスピンを始める!
壁にぶつかり、おっさんもといP1が破片を撒き散らし大破していく。
「勝った」
俺はそれをミラーで確認し、アクセルを……
「……」
アクセルを……
俺は路肩にH2を停める。
そして。
「っしょ。おい、おっさん大丈夫かよ?」
鉄屑と化したモノから、おっさんを引きずり出す。
「……なんで」
虚ろな目でおっさんが俺に尋ねる。
「あん? あぁそりゃ……」
警察や救急隊に電話をしながら答える。
「とれぇミニカーがぶつかったからぁ?」
救急隊とのやり取りを終え、H2へと戻る。
後ろから何かが聞こえた気がしたが気にしない。
俺は早く古賀SAに行かねばならないんだ!
法定速度を順守し、走っていく。
古賀SAが見えてきた。
「あぁ、腹が減った」
そうだ、後輩にラーメンでも買って帰ってやろう……
駐輪スペースにH2を停める。
「ありがとな」
ぽんぽんっとH2のタンクを撫でる。
我はNinja H2 最強の忍者なり
我はNinja H2乗り 最強のライダーなり
#NinjaH2 #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #ぜ~んぶフィクションです -
2020年03月15日
48グー!
凄まじい速さで景色が流れていく。
目の前のタコメーターは真上を差し、E/Gとマフラーが叫び声を上げる。
コーナーが近付く。
「ッ」
ギアを踏み下ろし、跳ね回る針を一瞥、そして。
「ーーぬぅ」
膝バンクセンサーを擦りながらコーナーを脱出
再びスロットルを開け、Vツインの野蛮で乾いたエキゾーストを響かせて加速していく……
「…………」
道の駅のベンチに座り、コーヒーを飲む。
目の前には真っ赤なオートバイ。
ドゥカティ999R
一目惚れで買った俺の愛車。
「~!」「ー♪」「~」
忙しく駐輪場のバイクたちが入れ替わっていく。
それらと999を何となく見比べる。
バイクの優劣に、排気量、形、気頭数は関係無い
俺の持論だ。
ーーしかし、それでもーー
「すいません、999の方ですか?」
何て考えてたら話しかけられた。
「ーーはい。そうですが」
答えながら視線を移す。
「良いですよね~ 999」
紅白のレーシングスーツを身につけた男が立っていた。
「どうも」
「やっぱLツインは~ トレリスフレームの軸方向に対しての剛性が~」
男が饒舌に口舌を垂れる。
「ーーー」
黙って聞く。
ーーそして、一通り聞いたところで訪ねる。
「あの、愛車は何に乗ってんで?」
「あ、自分あそこのパニガーレV4乗ってます!」
男が待ってましたと言わんばかりに、自分の愛車を見てくれと指差す。
見れば真紅のパニガーレV4が佇んでいた。
「ーーカッコいいですね」
率直に感想を伝えた。
「ありがとうございます! やっぱドゥカティって~ 昔は916乗ってまして~」
男のトークがさらに加速する。
なるほど。
筋金入りのドゥカティスタのようだ……
「長々とすいません! ありがとうございました!では良い旅を! 」
男が笑顔で去っていく。
「お気をつけて……」
俺はそれを笑って見送った。
ーーはぁ。
静かになり、手元のすっかり冷えたコーヒーを胃に流し込む。
冷たいモノが体の中に入り思わず身震い。
「おじさん かめんらいだー?」
突然の素っ頓狂な声。
見れば、可愛いお坊っちゃんが俺を見上げていた。
「あの赤いの、あくせるのやつ。おじさんあくせるなのぉ?」
「はぁ? え?」
アクセル?
グーグルで坊っちゃんの言葉を検索……
あぁ、なるほどね。
坊っちゃんに目線を合わせる。
「そうだよ。おじさん仮面ライダーなんだ」
「やったー!」
坊っちゃんが跳び跳ねる。
「さぁ、そろそろお母さんの所に帰りなさい。」
「えぇ~ でもぉ」
坊っちゃんが名残惜しそうにキョロキョロ。
「俺は今からドーパントと戦わなければならない。君がお母さんを守るんだ」
坊っちゃんの頭を撫でる。
「うん! 分かった!」
坊っちゃんが道の駅の方へ走っていく。
ーーさて。
「俺も帰るか」
コーヒーを片付け、999に跨がる。
腹の下から999の雄叫びが上がる。
そして、ゆっくりと道の駅を出ていく……
ふと見れば。
「ばいばいー!」
あの坊っちゃんが両親と手をつなぎながら、こちらに手を振っていた。
俺も手を振り返す。
アクセルッ!!
ヘルメットのシールドを閉じる!
ブオォォンッ! ブオォォンッ!
耳をつんざく雄叫び!
俺は仮面ライダーアクセル!
「振り切るぜッ!」
アクセルはフルスロットルだ!!
#999 #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #Leave all Behind -
2020年03月14日
45グー!
「よし! 」
私は気合いを入れる
「ふぅ……」
集中。キックを最適な位置に調整。
「ーーっふん!」
蹴り落とす!
チ、チ、カシュンーー失敗。
「………」
アイドルは4分の1上げ、チョークを全開。
「はぁ…」
再び集中……キックを調整。
「ーふ!」
蹴り落とす!
チ、カシュンーー失敗。
額を拭って、三度集中……
アクセルは開けない
「ーーふぅ!」
蹴り落とす!!
ドドンッ!
けたたましい音が鳴り響く!
E/Gが起きた。
チョークを半分閉めてしばらく暖気。
そして頃合いを見て、チョークを閉める。
「………」
腹に響くサウンドを感じながら、通常のアイドル位置へ。
あの独特なテンポが刻まれ始める。
「出発だ」
私はヘルメットのアゴひもを閉める。
去年の春、父を見送った。
「人は泣きながら生まれてくる。だからイく時は轟笑をもって閉じるべし」
生前の父のたわ言。
文字通り、笑いながら満足そうにイってしまった。
大いに笑って、少しばかり泣いて喪に服す。
そして、少しずつ父の遺品を整理していく。
そんな折りに。
「あ」
私は思わず声を漏らす。
それは父のガレージの中にカバーを被り鎮座していた。
カバーを取り払う。
「まだ有ったんだ」
ハーレーが居た。
ガソリンとホコリの匂いの混じるガレージ中、忘れられたように佇む鉄塊。
私がまだ中学生の頃に、父が乗っていたバイク。
父は目を子供のように輝かせ、このハーレーを磨いていた。
私も何度か後ろに乗せてもらったが……
「やだ! うるさい! くさい! 」
思春期の私には分からなかった。
まぁ、そんな言葉を聞き、当の父は高笑いしていたが。
ただ、それから父がバイクを見せびらかすことは少なくなった。
ふと、ナンバープレートの車検の月日を確認する。
今年いっぱいまで残っていた。
思わずハンドルに手を伸ばす。
「……あたたかい」
触った指先から熱を感じた。
シートに座り、両手でハンドルを握り車体を起こす。
「ッ! おっもぉ!」
ズッシリとした重さと鉄の軋み。
クラっとガソリンを吸い込んだような目眩を感じる。
「ねぇ~。何か有った~?」
母の声が家の方から響く。
「ううん! 何でもなーい」
ハーレーにカバーをかけ直す
「………」
私はそれを一瞥し、ガレージを後にする。
それからしばらくして、中型と大型の免許を取った。
そして、父のハーレーの整備をショップに頼む。
「うわぁ! ショベルじゃないですかッ!?」
ショップのオジさんが父のように目を輝かせる。
「あの、動かせるようにして欲しいんですが……」
私の言葉も上の空、オジさんの目はハーレー、ショベルに釘付け。
「あ、すいません! 承りました! お任せ下さい!」
私は父のショベルヘッドに乗ることにした。
苦労した、本当に苦労した。
セルも無ければ、何もない。
キックに悪戦苦闘。
車校での経験がまるで使えない。
修理費での苦心が可愛く思えるほどに手を焼いた。
でも。
「お! おぉ!」
乗るたびに父の気持ちを理解していった。
ショベルを通して昔日の父と対話する。
走る。眺める。撮る。
「血は争えんね~」
そんな私を見て、母が煎餅を頬張りながら呟く。
「明日、流星群を見に行くけど母さんも来る?」
「うーん」
母がうなる。
流星群は父と母の初デートでの思い出。
「とりあえず明日までに考えといて」
言ってショベルをガレージに納める。
そして棚に置かれたアルバムを開く。
挟まれた父の思い出の足跡に、私も写真を挟んでいく。
「明日は晴れると良いなぁ」
呟きながら心から願った。
そして翌日。
夜になり、冒頭のように出発の準備をしていると……
「お嬢さん」
聞きなれた声が私を呼ぶ。
「私も連れてって下さいな」
母がおめかしし、ヘルメットを準備していた。
「……もうぅ、母さ~ん遅いよ~」
ニヤケながらタンデムシートを急いで取り付ける。
「じゃ行くよ」
私の言葉に、母がしっかりと抱きついてくる。
スリーテンポのパルスを響かせ、走っていく。
「わぁ」
母がショベルのサウンドに紛れながら声を漏らす。
「お父さんとも、こんな風に走ってたの?」
「ーーうん」
「そっか」
少しスピードを緩める
「じゃ、これからは私と走ろうね!」
私は叫ぶ。
「うんッ!」
空を見上げる。
満点の星空、ひときわ輝く星が見えた。
「父さん」
ありがとう
「バイクって」
これからはそこから
「楽しいね」
私達のことを見守っててね
地面を駆ける一筋の光
空を駆ける一筋の光
後を追うのは、さてどちらだったか……
#FLH1200 #海刊オートバイ #俺RIDE #私RIDE #東○海平 #にわか知識ですいません -
2020年03月13日
51グー!
「やっべ! めっちゃ綺麗じゃん!」
テツクニが興奮しながら感嘆を述べる。
「うわぁ…やべ、人生観変わるわぁ」
シロウも同じような感じ。
「………」
ミキタカに至っては言葉を失っていた。
ちなみに俺も似たような感じ
目の前に広がるのは水平線。
この世のモノとは考えられない世界が広がっていた。
ただただ心を奪われる
「…また来ような」
テツクニの言葉に全員頷く。
振り返れば、4人の影が長く長く伸びている。
信じていた。
これからどんなことが起ころうともーー
信じていた。
4人でなら何だって出来るとーー
信じていた。
……信じていたんだ……よ。
「Thank You! みんなありがとな♪ また来るぜェ! アバヨ!」
テツクニのシャウトに、会場がドッと盛り上がる!
エフェクターの残響、ボルテージも冷めやらぬ中でバックへ帰って行く。
「ーーお疲れ」「おう」「やっぱしんでぇな」「はぁ………」
4人とも言葉を交わし、アフターケアを始める。
目線は合わない。
俺は慣れた手付きでベースをケースに納めて帰宅準備に入る。
「じゃ、俺帰るわ」
3人から言葉なき返事が返ってる。
俺もそれ以上は何も言わず、扉を静かに閉じた。
通路にロックが響く。間接照明の廊下をスタッフさんに会釈しながら帰っていく。
てきぱきと動く彼らを、少し眩しく思う……
「って、ヤバいヤバい」
気が付けばいつの間にか駐車場に着いており、愛車を通りすぎようとしていた。
タンデムステップに引っかけていたヘルメットを被り、愛車に火を入れる。
駐車場にVツインのパルスが響く。
「あぁ~、やっぱカッコ良いわぁ」
愛車、SV650Xを眺めてうっとりする。
しばしの暖気。
そして次の目的地に向けてSVを走らせる。
「………」
この時間が好きだ。
耳と肌でSVを楽しみながら心に貯まった諸々を洗い流していく。
俺たち4人は高校の時に趣味だったバイクつながりでバンドを結成した。
ボーカルはテツ、ギターはシロー、ベースは俺、ドラムはミッキー
放課後にみんなで集まってはバイクとコピバンに明け暮れる。
自惚れかもしれないが、、、
バンドに限っては学生にしては上手かったんじゃないかと思う。
そして、そんな時にインディーズに拾われてデビューした。
難しい横文字の名前で、青臭いロックを歌い奏でて刻む。
で、売れた。
欲しかったバイクや車を躊躇なく買えるほどにね。
酒も大人の遊びも経験した。
もうね、筆舌に尽くしがたいほどに浮かれてたよ。
俺たちの天下!誰も俺らを止めらんねぇってね。
で。
そんなことを数年続けたところで……
「昨日未明、人気ロックバンド所属ーー本名○○テツクニ容疑者がーー」
テツがクスリで捕まった。
急転直下、俺たちをバッシングが襲う。
世間に背骨が折れ曲がるほどに謝罪し、そして、ほとぼりが冷めたタイミングでテツに面会に行った。
「……ごめん」
すっかり人相の変わったテツに全員言葉を失った。
ま、俺らも俺らで辛気臭い顔になってたんだけどね。
「っと」
俺はカフェの裏にSVを停める。
「よう、みんな。お疲れさん」
「あ、店長。お疲れ様です!」
「店長。オーダーとドリンクお願いしていいですか?」
俺はカフェの店長になっていた。
学生時代から通っていた馴染みの店。
「あいよ~」
前掛けを着け、準備されていたコーヒーを煎れる。
あれから10年。
メジャーからは退いたものの、俺たちはバンドを続けていた。
全員、サラリーマンなり俳優なり働きながら休日に集まりライブハウスに出させてもらう。
細々とではあるが、ファンに支えてもらってバンドを続けることが出来ていた。
「店長、ライブ見ましたよ」
「やっぱベース上手いっすね」
「ドリンクまだですぅ?」
口々に飛んでくるバイト達の言葉攻めに四苦八苦。
「はいはい。ういうい」
コーヒーをカウンターに渡し、オーダーをさばく。
テツはクスリを辞めた。そして、今は作詞家をやっている。
バンドでは未だにボーカルだ。
多少、劣化したかもしれんが……
「良い声してんだよなぁ」
「え? 店長何か言いました?」
バイトが振り向く。
「んにゃ。なんでも無いよ」
バイトに愛想笑い。
R~R~
ポケットのスマホが振動する。
見ればミキタカからメールが来ていた。
どうやら次のライブは来月らしい。
で、後は別件でーー
「来週末にツーリングかぁ」
最近やっと生活が落ち着いて、全員またバイクに乗れるようになった。
「売れてた時はカメラが怖くて、まともに乗れんかったもんなぁ」
思わず顔がにやける。
目を閉じれば。
あの水平線が昨日のことのように、まぶたの裏に浮かぶ。
あの頃と今じゃ全然違うけどーー
「あッ店長! パスタ! パスタ!」
バイトの焦る声。
「あ、おっ! やっべ!」
見れば茹でていたパスタが泡を吹いていた。
R~R~
慌てふためく俺のポケットの中、スマホが再び振動する。
ライブ。お疲れ
またお前のベースを頼むぜ
腹減ったから皆で今からカフェ行くわ
サービスしろよな
ーーPacific Inline4 Howling
#SV650X #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #音楽業界の皆さんコロナに負けないで #月の無い夜も朝は来る -
2020年03月10日
52グー!
世界が ぐるんぐるんと回転する。
左に見えていた地面があっという間に右へ。
落ち葉と砂利の地面に全身を打ち付け、視界に火花が飛び散る
「あぁ……」
スローモーションになっていく世界の中、俺は驚くほど冷静に状況を理解していた
世界が暗転する……
WRを買って はや1年。
今日は念願のハードな林道に挑戦していた
俗にいう廃道。
まともな所など無く、落ち葉に砂利に倒木に、様々なモノが俺の行く手を阻む。
「エルズベルグロデオかよ!」
などと喜びの悲鳴を上げ、力と知恵を振り絞って、人の管理下から放れたソレに1人で立ち向かう。
そして。
想定していた道の約4割を越えたくらいの所でそれは起きた。
「ちょッ!」
コーナーを越えた瞬間に急に何かが飛び出してきた!
「ッま!」
思わずブレーキレバーを握り込む!
派手に土煙を上げながらWR共々倒れ、左へと滑っていく。
左に見えるは崖!
一瞬で判断。
強ばる体を無理矢理動かし、乾坤一擲にWRから飛び降りる!
WRがそのまま左の斜面へとなす術も無く転げ落ちる。
そして冒頭へ至る。
気がつけば俺は地面の上に横たわっていた。
「ーーー」
興奮に心臓が飛び出しそうになるのを必死に抑えて呼吸。
「ふぅ……ふぅ」
とりあえずヘルメットを脱ぎ、上体を起こして呼吸を整える。
痛みは無い。
奇跡的にコケ方が良かったのが、全身を砂だらけにしただけで済んでいた。
ピェ~
鳴き声が聞こえる。
見れば数メートル先に鹿が腰を抜かしたように佇んでいた。
状況を理解。
俺は鹿と衝突しかけたらしい。
思わず怒りからヘルメットを投げつけーー
待て。それはおかしい。
俺が山に押し掛けているのだ。
完全なる俺のミス、俺の責任。
手にしたヘルメットを地面に置く。
「……怪我は無いかい?」
ピェ~。
俺の問いに鹿が鳴き、そして山の中へ飛び込む。
「………はぁぁ」
やるせない気持ちを飲み込んで立ち上がる。
いつまでも座り込んでられるか。
とりあえず崖下を覗きこむ。
見れば数メートルの斜面の下、ガレ場の真ん中にWRが転がっていた。
「良かった」
安堵。見た感じ、斜面も緩く何とか降りることが出来そうだった。
茂る木々に掴まりながら下へと降りていく。
その途中で、体に多少の痛みが走る。
やはり打撲や擦り傷を負っているのだろう。
しかし骨折は無いようだ。
「体の傷は勲章…体の傷は勲章……」
自己暗示を施す。
そして、何とかWRにたどり着き、引き起こす。
「うわ、ZETA無くなってるやん」
右のナックルガードが無かったり、レバー類が歪んでいるものの、それ以外は落ち葉と砂利に まぶされただけで済んでいた。
見える範囲の汚れを落とし、E/Gをかける。
ガ…ジィィ…キュルキュル…
ドドンッ!
多少、嫌な音を立てながらもE/Gがかかった。
「あ……とぉ」
緊張が解けた為か、思わず膝が崩れる。
そのまま砂利の上、汚れることも厭わずに仰向けに寝そべる。
「……やらかした」
今更ながら後悔。
WRのデカール貼り直すかなぁ……
レバーも買い直さないと……
「ーーあの」
「え?」
ふと声がしたので起き上がる。
「大丈夫ですか?」
オレンジ水玉のアパレルに身を包んだオフスタイルの女の子が立っていた。
「へぇ、君も今日チャレンジに来てたんだね~」
女の子から貰ったコンビニのお握りを頬張りながら喋る。
「そうなんですよ。あ、お茶飲みますぅ?」
彼女がボブルビーから水筒を取り出す。
聞けば彼女、カシマさんも今日セローに乗って林道に来ていたらしい。
そして。俺やWRの落下音を聞き、ここまで進んできたらしい。
「あれ? そういえば君のセローは……」
「……ガレ場にビビって下に置いてきちゃいました」
カシマさんが恥ずかしそうにする。
「正解よ」
俺はおどけて、汚れたパーカーをこれでもか見せつける。
「ちょ!それ笑えませんよ~」
カシマさんがケラケラと笑う。
ーーさて。
俺は気合いを入れ立ち上がる。
「色々ありがとう。とりあえず俺帰るわ、下まで送るよ」
「ええ! 良いですよ~」
カシマさんが遠慮する。
「いやいや。そうもイカンでしょ……。てか、君のセローの所まで送るわ」
俺はWRに火を入れ、跨がる。
「……良いんですか?でも……」
カシマさんが渋る。
見れば彼女の荷物はボブルビーだけ。
なるほど、ヘルメットをセローに置いてきたのか。
「じゃ、悪いけど俺のヘルメット被ってくんね? あ、大丈夫!今綺麗にするから」
俺はバックの中のウェットティッシュでメットの内と外を拭きあげる。
「じゃ失礼して……」
カシマさんが俺のメットを被り、ちょこんと俺の後ろに乗る。
「じゃ行くよ」
俺の言葉にカシマさんが頷く。
ガレ場を慎重に進んでいく。
途中、案内に聞きながら山を下っていく。
「ー次は?」
「このまま まっすぐ!」
カシマさんの存在を感じながら、しかし風圧や枝に顔をしかめながらノーヘルで林道を走っていく。
しばらくして。
「む」
見れば茂る木々の間に何かが見えた。
「ここで良いですよ!この先、歩かなきゃ無理なんで!」
WRを止める。
「ありがとうございました」
カシマさんがペコッと頭を下げる。
「いやいや! それは俺のセリフよ! 君のお陰で助かったわ! いやホントマジで!」
俺は身ぶり手振りで感謝を伝える。
「また会おうね」
「……ですね」
彼女が笑う。
天使か、この子は!
何度も会釈し、木々の中に入っていくカシマさんを見送る。
俺はカシマさんが見えなくなるまで、千切れんばかりに手を振った。
「じゃ俺も帰っか」
俺は自分のメットを……
これ、カシマさんが被ったんだよな?
へへへ。しゃーない、しゃーない。
メットを被り、息を吸う。
メットから濃厚な森の香りがした。
そしてすぐ横にあった国道へと目をーー
「……ん?」
ふと疑問に気付く。
あの子、どうやってガレ場まで来てたんだ?
WRで走っても中々の距離が有ったぞ。それを歩いて来たのか?
わざわざ?
そもそも何で あんなタイミング良く会えて……
カシマ、、、かしま、、、
セロー、、、セロー?
「ーーあッ!!」
思わずカシマさんの消えた先を見る!
そこは ただ木が茂っているだけ。
「……ははは」
万感の思いで笑いが出る。
「○追う者は山を見ず。なるほど、出来すぎてらぁな」
また来るよ。
誰に語るでもなく呟く。
「前方良し!」
国道を走り帰っていく。
ふと聞こえる草笛は誰だったか。
答えるようにアクセルを吹かす。
#WR250R #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #セローの和訳はカモシカ -
2020年03月08日
45グー!
ギアを2まで蹴り落とす!
コーナーをアウトに膨らみながら、ラインを見極めて脱出。
そのままスロットルを開けていき、マフラーのバックファイヤーを応援歌にギアと回転数を上げていく。
ーーンバアァァァッ!
VTECが作動し、絶叫が金切り声へと変わる!
ホームストレートを車体にしがみつき、物理的な壁と化す空気を押し退けながら駆け抜ける。
ラップタイマーをチラ見。
今日一番のベストラップが刻まれていた!
「!」
込み上げる興奮を飲み込みながら、1コーナーに突っ込んでいく。
バイクの免許を取るきっかけは、しつこい先輩の勧誘に根負けしてだった。
安くない金を払い、半端な気持ちで教習に通い始める。
最初の引き起こしで嫌になったのを覚えている。
「こんな鉄の塊乗れるか」
教習所のジェットヘルの中で毒づいたのは良い思い出。
そして何度かCBでコースを回った時、ふとバイクに乗るのが楽しくなった。
坂道発進でエンストゴケ、スラロームでポールへ激突、一本橋に悪戦苦闘
そして急制動の前の加速にアドレナリンが出た。
仕事終わりに汗だくになりながら教習を重ねる。
そして。
免許を取得すると、その日にバイク屋へ 購入契約を済ませていた愛車を取りに行った。
目の前にはピカピカの新車。
CB400SF HYPER VTEC Revoを買った。
走りまくり、あっという間に慣らしを終わらせる。
VTECを初めて経験した時は興奮で過呼吸になるかと思った。
たちゴケした時には飯が のどを通らなくなった。
でもコイツとなら、町乗りからツーリングからサーキットまで全てが楽しかった。
自分好みにCBをカスタムしては一心不乱に走りまくる。
気付けば頭の中はCBでいっぱいになっていた。
スーフォアは~ ホンダは~ だって教習車だろ?
部外者から心無い言葉を言われることも有った。
だからどうした、俺はCBが好きなんだ。
乗れば乗るほどコイツに のめり込でいった。
「………」
トランポに寝そべりながらCBを眺める。
自惚れながら、何度見てもカッコいい。
とりあえず、もう何回か走って今日は上がろう。
来週はツーリングに行こうか、いやまたサーキットを走ろうか……
「カッコいいですね~」
「ーーあ、どうも」
などと考えていたら話しかけられた。
のそのそと起き上がる。
見れば革ツナギ姿の若い兄ちゃんが立っていた。
「最終ラップとても速かったですね~。痺れるような爆音に惚れ惚れさせてもらいました」
「……どもっす」
改めてみると俺より一回りほど若いように思えた。
「自分も今から走るんですけど…速く走るコツとか有りますか?」
改めて見ると、その子のツナギには真新しいツヤが有った。
なるほど
今日がデビューという訳か
「そっすね………まぁ、最初は無理をしないことですかね」
いつぞやの自分の姿が脳裏に浮かび、むず痒い気持ちになる。
「で後は~」
俺の言葉に兄ちゃんが目を輝かせる。
参ったな。
「大好きな愛車と走ることを楽しめば良いと思いますよ」
「………」
兄ちゃんが押し黙る。
まずい。変なこと言ったか……
「ですね! そうですよね!」
キラキラした目と言葉。
そしてアナウンスが流れる。
「ありがとうございました! 頑張ってきます!」
俺に頭を深々と下げ、兄ちゃんがコースに小走りに向かっていく。
ふと遠ざかる彼の背中に羽が見えたような気がした。
「ははは」
思わず乾いた笑い。
「羽はエンブレムだけで足りてるよ」
言ってCBとヘルメット、その他荷物をトランポへと納めていく。
コースから続々とエキゾーストが響き渡ってくる。
それを聞きながら俺もコースへと向かう。
ーーどれ。
「彼の勇姿を拝ませてもらうとしようか」
#CB400SF #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #起源にして頂点 -
2020年03月07日
45グー!
日もまだ昇らぬ朝方
枕元のスマホのアラームが鳴り響く。
「…………」
枕元の音源を手探りで探し、アラームを止める
そのまま、モゾモゾと布団の中で凝り固まった体を動かし、 定位置に置いていた眼鏡を取る
「………んむぅ」
画面の明るさに目を眩ませながら時間を確認
AM3:50
ーー起きるか。
温かな布団の誘惑に、後ろ髪を引かれながらも予定を開始することにした。
「寒ッ………」
外に出ると、早朝のツンと張り詰めた寒さが広がっていた。
ネックウォーマーにアゴを埋め、VOXに近づいていく。
「……あ」
すっかり冷えきったVOXのシートと積んでいた荷物に霜が降りていた。
とりあえずE/Gをかける
キュルルンと少しグズりながらもE/Gがかかった。
ジェットヘルメットに仕込んだインカムとスマホを同調させ、出発の準備を進めていく。
今日は100キロ先のキャンプ場へと向かう。
連休を使っての旅の始まり、寒さと期待が混ざり合い、何とも気持ちが落ち着かない。
「じゃ行くか」
ヘルメットのシールドを下げ、信号の点滅する道路へと静かに走り出す。
今の会社に就職したのは、高校を卒業してすぐだった。
その当時の同級生より少しだけ勉強を頑張り、第一志望の会社に内定することが出来た。
それから約10年。
そこそこの給料、中々の暮らし。
まさに安泰。
多少の不満はあるものの、一切の不自由は無い。
ーーなかったのだが……
あれ? 俺の人生こんなもん?
そんな疑問が心に芽生えた。
30手前にして、思春期のような
あまりにも青臭い憂鬱。
普段なら仕事に追われ、忘れてしまうのが………
あれ? あれ? あれ?
と心の中に巣食うソレは次第に大きくなっていった。
「あぁ。つまんね」
仕事やプライベートで1人呟く。
1度考え始めると止まらなくなっていた。
そんな時、実家の弟が通学で使っていた原付が俺の元にやって来た。
VOX。元は俺が学生の時に使っていた通学の相棒。
こいつで旅に出よう。
そう思った
余っていたお金で旅に必要そうな道具を買い揃えていく。
「ははは。良いんじゃないの」
サイドバックや巨大なシートバッグで武装したVOXに思わず声が漏れた。
~~~~
山へ上った、海へ行った、酷道を走った。
オドメーターがスロットのように回転していく。
壊れる度に直して、その度に愛着が増して。
今まで もて余していた休日が堪らなく楽しみになった。
「ふぅ~。着いたぁ」
ヘルメットを脱ぎ、ガチガチになった体に新鮮な空気を吸い込む。
やはり原付で3桁走るのは中々に堪えるもんだ。
でも どこかそれを楽しんでいる自分も居た。
走行後のキンキンと金属音を鳴らすVOXを見る。
小さく擦り傷が無数に入ったボディやフェンダー。
泥の跳ねたステップ。
「これからも頼むぜ相棒」
ぽんぽん とシートを撫でる。
さてと。
「ぼっちキャンプはじまりはじまり~」
高校14年生の明日はどっちだ?
#VOX #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #オートバイの楽しさに排気量は関係ない -
2020年03月04日
54グー!
「俺とバイクどっちが大事なんだよ!」
カズキが半狂乱になりながら声を荒げる。
些細なことからのいつもの口喧嘩。
結局はどちらかが察して折れるいつものこと。
ただ、しかし今回に限っては
「ええ……。あんたがそれ言うん……」
参った。よもや女の私が男にそれを言われるとは、、、
バイクに乗り始めたのは学生の時の彼氏の影響だった。
ありきたりな話だが、彼の直菅で下品なZEPHYRに憧れて、車校に通いつめ、何とか中免を取得。
そして、お金と乗りやすさからビッグスクーターを買った。
毎夜毎晩、サンダル半キャップでネイキッドから原付スクーターまで寄せ鍋状態で騒音を撒き散らす。
今思えば汗顔の至りであるが、とてもとても楽しかった。
そして、それも卒業と社会人になるにつれて減っていって、、、
「はい。担当の者に変わります」
気付けば、今ではノルマと上司に神経を磨り減らし、会社とアパートの往復を繰り返していた
1日がとても長く感じる。
しかし振り返ってみれば1週間、1ヶ月、半年があっという間に過ぎていて。
「セツラ、おめでとう」
友達の おめでた連絡に機械的に返信を返す。
あの当時、つるんでいた友達はそれぞれに幸せになっていて
過去のあの日々を何度も何度も思い返す。
「……バイクに乗らなくちゃ」
思い立った。
久方ぶりに某2輪販売検索サイトにアクセスする。
バイクの形、地域、販売店を絞っていく。
アポを取り休日に訪問。それを繰り返していく。
それに合わせてヘルメット、ジャケット、パンツ、ブーツと装備を揃えていく。
そして。
「ここをこうで…○○で、△△で」
バイク屋の説明をヘルメット越しに聞く。
しかし目と意識は目の前の黒いバイクに釘付け。
インパルス400を買った。
特別これが欲しかった訳ではなかった。ただ、私の諸々の条件にこのバイクが丁度良かった。
「…………」
ふと見ると、ここまで乗せてきてくれた彼氏のカズキが店頭のバイクを見ている。
彼もバイクに乗るんだろうか?
「しかし意識が高いですね」
「ーーえ?」
店員の言葉に意識を戻す。
「いえですね。感心しまして、、、ほら、最近のライダーさんてカジュアルなスタイルが本当に多いんですよ」
「…はぁ」
「でもお姉さん。フルフェイスにしっかりプロテクターの入った上下にブーツ、グローブ。素晴らしいことですよ!」
「ーーどうも」
思わず恐縮する。
言えない。かつてサンダル半キャップで走っていたなんて。
「なぁ、まだ出られんの」
カズキが私に耳打ちしてくる。
「あ、すいません。ではそろそろ行かれますかッ!?」
店員さんが察して、いそいそと道路に向けてバイクを移動させる。
「何? じぇらしー?」
「うるせぇ。後ろから俺が付いちゃるけん。はよ行くぞ」
ぶっきらぼうなカズキ、これは確実に妬いてるな。
「では ありがとうございました!」
店員さんの言葉を聞きながら、インパルスに跨がり車体を起こす。
多少の重量感に緊張
イグニッションをON。
ブォン!っと体を震わす音と振動に、私の気持ちにも火が入った。
サイドスタンドを蹴りあげ、ローに入れる。
「お気を付けて! 本当にありがとうございました! ご安全に!」
店員さんの丁寧なお見送り。
ペコッと軽く会釈する。
ブィンブィンと多少ギクシャクしながら数年ぶりに公道へとデビューする。
「……ひぁ」
おッかなビックリ、興奮に声を上げながらミラーを確認する。
深々と頭を下げる定員さんと、ドアに肩肘をつきながら運転するカズキ。
速度を上げながら、ギアも上げていく。
思わずニヤけてしまう。
私ってまだまだ やれんじゃん!
「んふぅ」
全身を通して伝わってくるモノに思わず声が漏れる。
すべては ここから!
まだまだこれから!
ここから私が始まるんだ!
#インパルス400 #海刊オートバイ #俺RIDE #私RIDE #東○海平 #過去の愛車に思いを馳せて -
2020年02月27日
69グー!
カメラを忘れたことに気づいたのは、
旅館にて風呂を済ませ、大広間に行く時だった。
浴衣姿で、部屋に戻りバックをひっくり返す
しかし探せど探せど、カメラは無い。
「……むぅ」
海沿いでZZRを停め、心ゆくまで写真を納めたまでは記憶に有るのだが、、、
「どうしよう」
しばしの間、熟考。
探しに行くことにした。
8万のカメラ、放っていくには あまりにも惜しかった。
そうと決まれば。
散らかした荷物の中から、ジャケットやパンツを身に纏っていく。
せっかく温泉に入り体を清めたというのに、、、
最低限の貴重品をポーチへと押し込んでいく。
こんな時にポロッとカメラが出てきてくれれば良いのだが、、、
「まぁ、出てこんわな」
カメラが出てくることはなかった。
「失礼します、、、あら?」
ノックと共に仲居さんが入ってきた。
「お出掛けですか?」
「ええ。ちょっと出先で忘れ物をしまして」
「左様でございますか、、、。ご夕食どうしましょうか?」
「あぁーー」
しまった。今回は奮発して会席を頼んでいたのだった。
どうしたものかーー
「また改めましょうか?」
「良いんですか!」
「はい。2時間ほどなら大丈夫ですよ」
仲居さんが微笑む。
「ありがとうございます! すぐ戻るんで!」
会釈し、愛車へと急ぐ。
タイムリミットは2時間
今現在の時刻は17時半ば
すっかりエンジンも冷えたZZRを、生ガス抜けの炸裂音と共に たたき起こす。
海辺までは往復50キロほど、余裕ではあるが どこか心許ない。
石畳の温泉街にZZRの雄叫びが響く。
「………」
あのカメラには ここ数年のツーリングの思い出が入っていた。
盗まれたり、壊れてなければ良いのだが、、、
回転数高めに、海辺への道を走っていく。
焦るために信号によく引っ掛かる。
「はぁ~」
ふと信号待ちがてら横を見る
夕日が山に隠れ始めていた。
もういっそ。
カメラがこっちに走ってきてくれないものか……
「あ! おーい!」
いきなり前方から声がした。
見れば対向車線の先頭に並ぶ、二人組のネイキッドに乗るライダーが共に手を振っていた。
………ヤエーか?
こちらも軽く手を振る。
「ダメだ、伝わってねえ!」
「これ! これ!」
片方のライダーがタンクバックから何かを取り出す。
俺のカメラだった
~~~~
「いやぁ、ほんとありがとうございました」
俺はカメラを受け取り深々と頭を下げる。
「いえいえ。こっちも勝手に持ってきて申し訳ない」
「でも会えて良かったです」
二人組。マスツーカップルが言うには、カメラはずっと あの海辺に放置されていたらしい。
2人も、それを視界の隅にとめながら撮影会をしていたが、一向に俺が取りに来なかったので、思いきって俺を追って来たとのこと。
「よく俺の場所が分かりましたね~」
「あの爆音を頼りに来ました(笑)」
「……お騒がせしました」
「嘘ですよ。あの先の旅館に泊まられるんですよね?」
「ええ。そうですが…」
「僕達もそこに泊まるんですよ」
「ここら辺、あそこしか泊まるとこ無いもんね~」
街灯が灯り、2人を照らす。
なるほど、これは良いものだ。
「あのーー」
ーー写真撮っても良いですか?
口から出そうになった言葉を飲み込む。
これは ちゃちを入れるべきではないな。
「一緒に旅館まで行きませんか?」
俺の提案に2人が賛成と顔を綻ばせる。
「お礼に酒奢りますよ」
「え? 良いんですか! やったー」
「ちょっと。少しは遠慮しなさいよ!」
「ええ~」
3人いそいそと道の傍ら、準備を整える。
見ればすっかり日も落ちて、見上げれば雲の合間に月が見え隠れしていた。
「じゃ行きますか」
啓蟄の夜に3つの光を連ならせていく。
これだから旅は止められない。
#ZZR400 #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #今年もたくさん走りたいです -
Ninja ZX-12R
2020年02月27日
68グー!
息が出来ない……
スクリーンから顔を出そうものなら、はるか後方の彼方へ吹き飛ばされそうになる
ただただ体を縮こませ、握るハンドルに力を込める、内腿が引き吊るほどにしっかりとニーグリップ!
睨み付けるようにメーターを見る
140…180……220
針がみるみる内に320へ吸い込まれていく
今回は行けるか?
爆音と化した風切り音と恐怖心に揺さぶられながら、スロットルをさらに捻る!
目測、ストレートは残り2キロ
息をすることも忘れ、スロットルを握る右手と、尻を通して伝わるリアタイヤの挙動に全神経を集中させる
240…260……280!
そして!!
~~~~~~~~~~~~
12Rのサイドカウルからユラユラと陽炎が昇る
手に持った缶コーヒーを、縮こまった体に流し込む
あまりにも熱いモノが体の中を通っていった
「………ふぅ」
情けないため息をつき、愛車のすぐ側に どかっと座り込む
結局、今回もダメだった
あの時、目の前には誰も居なかった
愛車の状態も良好、しかし俺がダメだった。
何度やっても320はおろか、300に到達出来ない
最後の最後でスロットルを戻してしまう
「…………」
何も言わぬ12Rをただただ見つめる
「ーーぁ」
気付けば右足が震えていた。
やはりダメなのか?
これが限界なのか?
俺ではーー
「あの」
突然、短い言葉が耳に刺さる
見れば傍らに、おっさんが立っていた。
「トばされてましたね」
「……そっすね」
「物凄い速さで抜かれてビックリしました」
おっさんが12R をジロジロ見ながら喋る。
なるほど、どうやら迷惑をかけたらしい
「ーースイマセン」
俺は深々と頭を下げる。
「いえいえ! 」
おっさんが大袈裟に声を出す
「思わず見とれちゃいました」
「え?」
「良いですよね~……バイク」
頭を上げれば、おっさんは まるで子供のような目で12Rを見ていた。
「バイク乗ってたんですか?」
「遠い昔ですけどね」
何となく、おっさんの昔話を聞く。
聞けば、その昔GPZ600Rに乗ってたらしい。
何度もこけ、ボロボロになりながらも楽しんでいたそうな、、、
「今は もう車ですけどね」
「あの、車は……」
「型落ちのレジェンドに乗ってます」
レジェンド……なるほど。
確かに居たような気がしてきた。
「これから、何処に行かれるんですか?」
「あぁ……これといっては……」
思わず口ごもる。
「ーーそうですか」
しまった、何ともカッコ悪い。
こんな時に柔軟に返せない自分が情けなく思えた。
「あ! ちょっと待っといてもらえます!?」
おっさんが思い出したようにSAに走っていく。そしてしばらくして帰ってきた。
「これどうぞ」
おっさんが俺に手を差し出す。
その手には缶コーヒーが握られていた。
「頑張って下さいね」
おっさんが はにかむ。
「……ありがとうございます」
おずおずと缶コーヒーを受けとる
「では。私はこれで」
おっさんは満足したのか、踵を返し車の並ぶ中へ帰っていく
「ーーあの!」
俺はおっさんーー
いや、おじさんに向けて声を飛ばす
「良い旅を!」
俺の言葉に、おじさんが笑顔で手を上げた。
ふと12Rへ目を向ける。
すっかり陽炎は消え失せていた
「さてと」
貰った缶コーヒーを一気に腹に流し込む!
「もう少しだけ頑張りますかね」
晴れた空に12Rの雄叫びが木霊する。
次は320に届きそうな気がした
#ZX-12R #海刊オートバイ #俺RIDE #東○海平 #全てフィクションです
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