パラレルツインは「クランク角」で選ぶ!

同じように見えて、乗り味は大きく違う!! パラレルツインは「クランク角」で選ぶ!
並列2気筒

KTMの75度という例外はあるけれど、パラレルツインのクランク位相角は、180度、270度、360度の3種に大別できる。そしてこの角度によって、バイクのキャラクターは大きく変わってくるのだ。

パリダカで生まれた270度クランクならではの絶妙で心地いいトラクション

中村のひとことインプレ!

近年のパラレルツインで主力になっている270度クランクの原点は、ヤマハが1990年代のパリダカールラリーに投入したファクトリーレーサー。その血統を受け継ぐMT-07のエンジンは、絶妙のトラクションが堪能できるだけではなく、スムーズな吹け上がりとツインならではの鼓動感が楽しめる秀作だ。

YAMAHA MT-07

新車価格:79万2000円 中古相場:35.9万〜67.2万円

現在のヤマハは幅広い排気量帯でMTシリーズを展開。その中軸を担う07は、兄貴分に当たる10や09より格段に扱いやすく、弟分の25や03と比較すれば、守備範囲がかなり広い。なお発売が待たれるテネレ700は、MT-07ベースのエンジンを搭載。

YAMAHA MT-07
YAMAHA MT-07 エンジン
270°

ひと昔前のTDM/TRX850とは異なり、MT-07のエンジンは2気筒ならではの魅力を強調するため、あえて適度な振動を残している。

小型軽量化が容易で生産コストが抑えられる

 ひと昔前はめったに注目されないエンジン形式だったのに、ここ最近の2輪の世界では、パラレルツインがブームになっている。その背景には周辺技術の進化があるようだが、おそらく近年の車両メーカーは、理想の車体とコストを考えて、パラレルツインに力を入れているはずだ。何と言っても、2セットのシリンダー/シリンダーヘッド/カムシャフト関連部品が必要になるVツインと比較すれば、パラレルツインは小型軽量化が実現しやすく、搭載位置の自由度が高く、しかも製造コストが大幅に抑えられるのだから。
 そんなパラレルツインで興味深いのは、クランクシャフトの位相角次第で、爆発タイミングが変更できること。車両メーカーはこれまでに、さまざまなタイミングにトライしてきた。
 もっとも、この件に関する傾向を考えると、ミドル以下は昔から180度が王道で、近年のビッグバイクは270度が定番になりつつある(かつては360度を主力としていたBMWとトライアンフも、現在は270度で統一)。ただし、伝統の360度を維持するカワサキW800や、独創的な75度を採用したKTM790シリーズなど、我が道を行く車両も存在するのだ。
 いずれにしても、パラレルツインに興味があるライダーは、自分好みのクランク位相角と爆発タイミングを、購入前にじっくり検討するべきだろう。

クランクの動きを知ろう!
360°
360°クランク

1970年以前の定番だった360度位相は、単気筒を思わせる構成だが、爆発は単気筒の倍で、左右気筒が等間隔で爆発。実直で扱いやすいキャラクターが構築しやすい一方で、高回転には不向きと言われている。ちなみに1960年代のホンダは、並列2気筒のCB72/77とCB450に、スポーツ性重視のタイプⅠ:180度クランクと、実用性重視のタイプⅡ:360度クランクを設定していた。

270°
270°クランク

爆発間隔が90度Vツインと同じになる270度位相のクランクは、トラクション性能に優れるというのが一般論。ただしかつてのヤマハは、ライディングの妨げになる慣性トルクの変動が少なく、爆発トルクが瑞々しく感じられることが、この位相角の最大の美点と公言していた。近年ではヤマハだけではなく、ホンダやBMW、トライアンフ、ロイヤルエンフィールドなども採用。

180°
180°クランク

270度とはタイミングが異なるけれど、180度も爆発は不等間隔。1970〜80年代前半は、この位相角が高回転指向の証という雰囲気があって、180度クランクのパラレルツインスポーツが数多く販売されていた。とはいえ、不思議なことにビッグバイクの採用例は多くない。なお現代のパラレルツインは、クランク位相角に関わらず、振動緩和用のバランサーが必須アイテムになっている。

伝統の位相角を採用して
W1シリーズの意匠を継承

今年で21年目を迎えるW650/800シリーズは、これまでに数多くの仕様変更を受けている。ただし空冷パラレルツインの基本構成は不変で、クランク位相角は1960〜70年代に販売されたW1シリーズと同じ、360度を維持。カム駆動は現行車唯一のベベルギア+バーチカルシャフト式。

新車価格:110万円 中古相場:35.6万〜103.4万円

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W800のエンジンの特徴は、ライディング中に穏やかな気分になれること。最高出力発生回転数は6500rpmだが、2000〜4000rpmあたりを使って淡々と巡航するのが最高に楽しい。この特性は180度や270度とは一線を画する、360度クランクならではの魅力だろう。

不等間隔爆発ではあっても
他機種より鼓動感は控えめ?

2012年に登場したNCシリーズは、ホンダ初の270度クランク採用車。シリンダーを62度前傾させることで、通常の燃料タンク部に収納スペースを設置している。2014年型からは排気量を669→745ccに拡大すると同時に、振動緩和用のバランサーを1→2軸式に変更。

新車価格:90万900円〜 中古相場:32.9万〜71.3万円

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同形式のエンジンを搭載するX-ADVやアフリカツインが、270度クランク特有の鼓動とトラクションを強調しているのに対して、NCのパラレルツインは何となく主張が控えめ。もっともだからこそ、親しみやすく、あらゆる用途をソツなくこなせるのかもしれない。

爽快なフィーリングで
ライダーのスポーツ心を刺激

1986年に発売したGPZ500S以来、カワサキの水冷パラレルツインスポーツは、長きにわたって180度クランクを継承。2005年以前のエンジンはGPZ1000RX用を半分にしたかのような構成だったが、650ccになってからはミドル用としての専用設計が行われている。

新車価格:88万円〜 中古相場:34.9万〜76.8万円

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低中回転域で力不足を感じるわけではないけれど、堅実な進化を遂げてきたカワサキのミドルパラレルツインが本領を発揮するのは、やっぱり高回転域。他の位相角ではなかなか体感できない、180度クランクならではのシャープで軽やかな吹け上がりが満喫できる。

※中古車相場価格はグーバイク調べ(2020年5月)。

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