イマドキの 『エンジン流用事情』
ユーザーのニーズに合った車両を作る。これはバイクメーカーの宿命だ。だがライダーの好みは幅広く、誰にでも好きなスタイルやカテゴリーがあるように、一台のバイクで全てのライダーの欲求を満たすことはできないものだ。いつの時代でもメーカーが考えていることは、様々なカテゴリーにマッチした『売れる車両』をいかに生み出すかということだ。
とはいえ、一台の車両をゼロから作ることは大変な作業だ。市場でユーザーのニーズを調査して車両コンセプトを決定したら、それらに基づきエンジンと車体を設計して車両をテスト。これらのプロセスを繰り返し、各種基準をクリアさせた上で初めて量産体制へと移行できるのである。
簡単に書いてはいるが、そこにかかるコストや時間はとても膨大なもの。そこで古くから行われている手法が、既存のエンジンを流用して新たな車両を生み出す、というフローである。
市販した実績があり、発売後の『初期トラブル潰し』も終わったエンジンであれば、新規開発の手間は大幅にカットでき、生産設備も流用が効く。あとはエンジンの特性を修正して、狙うカテゴリーに合った車体に搭載すれば良いのだ。巨額の投資をして生み出したエンジンが、僅かな変更で全く別のバイクに生まれ変わる・・・・・・世界のメーカーはこうした手法も利用しながら、販売車種を増やして成長を続けてきたのである。
今回は先ほど発表されたホンダの『ニューミッドコンセプト』のような最新事情も交えて、同型エンジンモデルの歴史や過去モデルを幅広く紹介していこう。
異メーカー間共有系
四輪では提携するメーカー間でエンジンやシャーシを共用する『共通プラットフォーム』という考え方が一般的になっているが、二輪の世界ではその例は少なく、一部モデルでエンジンを共通化している程度だ。二輪は趣味性が高く、メーカー間の思想の違いにも大きな隔たりがあるため、そう簡単に提携というわけにはいかないというのがその理由だろう。
ただ、二輪の世界では古くからエンジンだけを開発・生産するエンジンサプライヤーが存在している。古くはイギリスのJAP、最近ではオーストリアのロータックスが特に有名で、市販車からレーサーまで様々なエンジンを世に送り出している。また、最近では主に新興国に向けて設計されるモデルに、ヤマハ製125ccエンジンを使うケースが多く見られるようになっている。
ロータックスエンジン |
HUSQVARNA NUDA900
F800系の2気筒エンジンと同じルーツを持つNuda。ハスクバーナはBMW傘下となったことで、今後販売車両を増やしていくだろう。
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BMW F800S
初代F650系に搭載されていた単気筒もロータックス製で、この2気筒も同様だ。メーカーにとっては、エンジン開発のコストを抑えられるメリットがある。
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スズキエンジン |
SUZUKI RGV250r
レーサーレプリカブームを支えたガンマ。2ストVツインのパフォーマンスは強烈で多くの若者を虜にした車両だ。他社製マシン同様、現在は価格高騰中だ。
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APRILIA RS250
ガンマのエンジンをアプリリア自前の車両に搭載したモデルがRS250だ。異メーカー間でエンジンを共通とした、二輪界では非常に珍しいモデルだ。
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HONDA CBR250R
昨年登場して話題をさらった本格スポーツシングル。新開発の水冷エンジンは『回す楽しさ』を誰にでも体感できる味付けだ。入門用にも最適だ。
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HONDA CRF250L
昨年末の東京モーターショーでお披露目された本格オフロードモデルで、CBRの心臓部を搭載する。旧来のXRファンたちからも大きな期待をされている。
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大変身系
オンロードモデルからオフロードを生み出す、といったカテゴリーの垣根を大きく超え、全く違うジャンルの車両を生み出す流用パターンがこの『大変身系』だ。このパターンでは、エンジン寸法や重量の問題から、車体設計に大きな制限のある4気筒などのマルチモデルよりも、単気筒や2気筒などでコンバートが行われる場合が多く、特に400cc以下のクラスでは長年に渡ってこうしたモデルが多数販売されてきた。最近では、昨年発売されたCBR250Rのエンジンをベースに、本格オフロードモデルに作り変えたCRF250Lがその好例だろう。オフモデルとしてどのような味付けで登場するのかが非常に気になるところだ。
YAMAHA YZF-R1
99年に登場し、世界的なSSブームを巻き起こしたエポックメイキングなマシン。文句のつけようがない高性能とシャープなスタイルが魅力の一台だ。
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YAMAHA FZ-1
05年型のR1エンジンをベースに設計変更を加えて搭載したスポーツネイキッド。ひと度スロットルを開ければSS顔負けの走りも堪能できる。
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味付け変更系
同型エンジンを使用するなかで一番多いのがこのパターン。最初にハイパフォーマンスなモデルを生産し、後に若干のデチューンや味付けの変更を行なって、性格の異なる別のバイクへと仕立て上げる手法だ(またはその逆)。具体的には、カムプロファイルや燃焼室形状、圧縮比を変更すると同時に、吸排気系も同時に見直されるのが一般的だ。とは言っても、ベースとなるエンジン次第で変更できる性格もある程度決まってくるため、高出力エンジンが由来の場合は、派生モデルとして生み出されるものも、それなりに高い性能を持つことが多い。また、気筒数やシリンダーレイアウトの変更ができないため、ベースエンジンの素性に縛られやすい。