バイクはクルマと同じく移動の手段になる。しかし、多くのバイク乗りはただの手段ではなく、バイクに乗ること自体を目的とし、旅に出る。匂いや風を感じ、自らの手足でバイクを操り、大自然に立ち向かう。そこには他の交通手段では味わうことのできないロマンや感動がある。ここでは日本を代表する偉大なバイク冒険家たちの足跡を辿りつつ「冒険とは何か」について考えてみたいと思う。
Photo/Shinji Kazama、Takashi Kasori、Junya Yamauchi、Kenji Kodama Text/Satoru Ii
1987年、北極点を制した風間深志氏。
バイクはYAMAHA TW200。
風間 深志(かざま しんじ)
1950年生まれ。バイク雑誌の編集者を経て、バイク冒険家へ。芸能事務所ホリプロ所属、日本モーターサイクルスポーツ協会、山梨県観光大使など多岐にわたり活動中。2004年のダカール・ラリーにてトラックと衝突、左足に重傷を負うが、ライダーとして復帰。
裏山から世界の果てへ終わらない大冒険
バイクで旅をする日本人ライダーは多くいるが、風間深志氏はその中でも群を抜いている。エベレスト6000m越え、北極点、南極点への到達など、マネしようと思っても出来ない数々の偉業を残しているのだ。
そもそも風間氏の冒険の原体験は16歳まで遡ると言う。とてもバイクに乗って登れないような自宅の裏山を、ほとんど押し上げるようにして一日がかりで登り、538mを登頂した。それこそが69歳になった現在まで、さらにこれからも続いていく冒険人生の第一歩だった。
それから風間氏はモトクロスに夢中になり、26歳まで選手権を転戦。ここで確たるバイクテクニックを身につけた。それと前後してモーターマガジン社に入社し、バイク雑誌の編集者として勤務。当時まだなかった林道ツーリングという遊び方を提案し、あっという間に全国にブームを巻き起こした。さらに今でこそバイク乗りなら誰もが使う「オフロード」という言葉も、「オンロードの反対ならオフロードだろう」と、風間氏が作った言葉らしい。
そうして風間氏が編集として携わったバイク雑誌は、在籍した1972年から1980年までにその発行部数を6倍以上に伸ばし、風間氏の活動はバイク雑誌の枠に収まりきらなくなっていった。
次の瞬間には、早く家に帰りたいと思う
風間氏は、もう一度ライダーとして自らの原体験であった冒険を追いかけよう、とモーターマガジン社を退社。「バイク=アウトローという世間の評価をなんとかして覆してやろうと思っていた。例えば日本人がロードレースで世界チャンピオンになっても新聞ではたった12行の記事にしかならなかった。バイクが日本で注目されるためにはレースじゃない。夢や冒険を追い求めるチャレンジこそが胸を打つんだよ」と風間氏。それからキリマンジャロのバイク登攀、日本人初のパリ・ダカール・ラリー挑戦、エベレスト・・・。
そして1987年、史上初となるバイクでの北極点到達はアメリカ最大の経済新聞ウォール・ストリートジャーナルで一面を飾り、1992年の南極点到達では朝日新聞でも一面で取り上げられた。
「たくさんのスポンサーに助けてもらったし、色々なものを犠牲にして行くから、達成した時の感動もひとしおだったね。でも次の瞬間には、早く家に帰りたいと思う。旅に出ると、日常というものがどれだけ素晴らしいかを再確認することができるんだよ。バイクは、肉体も心も、完全燃焼する乗り物なんだ。辛いことも楽しいことも全部を全身で受け止めていくのがバイクの素晴らしいところなんだよね」と語る。
風間深志の冒険マシン
YAMAHA セロー225
「モトクロッサーの性能を目指したトレール車の中で、しっかりとした開発理念があり、まさにカモシカのように森の中を走れるコンセプトマシン」と風間氏はセローに太鼓判を押す。
中古相場:8.8万円~25.9万円
YAMAHA DT-1
1968年に発売したDT-1は、まだオンとオフの区別が曖昧な時代に「トレール」という新ジャンルを確立。風間氏はこのマシンでモトクロスレースをしていた。
中古相場:79万円~147万円
HONDA X-ADV
「ヨーロッパでとても売れているが、日本ではビッグスクーターへの偏見からか、あまり売れていないのが残念」と風間氏が語るのがX-ADVだ。新しく発表されたADV150への期待も大きい。
新車価格:114万9000円(税抜)~
中古相場:79.8万円~119万円
※中古車相場価格はグーバイク調べ(2020年3月)。