80年代から90年代終わりにかけての約20年間 世のライダーを熱狂させた過激なモデルがあった。 それが2ストロークエンジンを搭載する レーサーレプリカと呼ばれる車両だ。 当時の市場を席巻し、一大ブームとなった 2ストレーサーレプリカとはどんなバイクだったのか。 その魅力を改めて考えてみよう。 Text:Ryo TSUCHIYAMA Photo:GooBike
まずはじめに2ストロークというエンジンについて考えてみよう。2ストロークエンジンでは、まずピストンが上昇する際に混合気(ガソリンと空気が混ざったもの)がクランクケースの一次圧縮室へと流れる。その時燃焼室では前の行程で吸い込まれた混合気が圧縮されている(二次圧縮)。 そしてピストンが下降する時には、二次圧縮後に点火した排気ガスが排出され、一次圧縮室で圧縮された混合気が燃焼室へと送り込まれる。つまりピストンの動きとしては2行程で吸気・圧縮・爆発・排気が終了するのだ。 つまり4ストロークエンジンと比べると、同じ回転数では2倍も爆発回数が多い2ストロークの方がパワーを効率よく取りだせるのだ。そのため、同じ排気量のバイクであっても2ストローク車ではより多くのパワーを稼げた。 さらに、4ストロークエンジンのようにカムシャフトや吸排気バルブなどが必要のない構造だから、エンジンの重量を軽くできるうえによりコンパクトなエンジンを設計できるという利点がある。そんなこともあって、2ストロークエンジンはレースの世界を中心に年を追うごとに劇的な進化を遂げた。 ただ、4ストロークでは独立している各行程を一度に行っているゆえに、例えば完全に燃焼しないガスが発生しやすく、燃費という点では劣ってしまうというデメリットや、2ストロークエンジン用のオイルを一緒に燃やすことによって煙がどうしても出てしまうなど、市販車にとってはマイナスな点も少なからず存在するのだ。
80年代に入ると、WGP(二輪ロードレース世界選手権)の人気を背景にして、日本の各メーカーは当時のレーサーそっくりのバイクを市場へ投入し始める。それがレーサーレプリカと呼ばれる一大ブームの始まりだった。メーカーのワークスカラーに似せた大きなカウル、レーサー譲りのメカニズムを持つパワフルなエンジン、コーナーリング性能を極限にまで高めた足周り……そんなレーサー顔負けの装備を持つマシンに、公道を堂々と走れる証のナンバーが付いていたのだから、レース好きのライダーたちは熱狂した。まさに最新・高性能こそが正義と言っても良いくらいの時代だったのだ。 また、国内4メーカー全てが同時期にWGPへ参戦していたこともあって、各メーカーの競争は激しく、1年おきにニューマシンが登場するほど日本の市場は盛り上がり、マシンの性能は年を追うごとにどんどん過激になっていたのだ。
レーサーTZ直系のTZRシリーズは、一部では部品の互換性もある。そのためレーサーの足周りを市販車に移植するというカスタムもメジャー。
ほぼ同時期のワークスレーサーNSRと市販車を比較しても、その出来栄えには驚くばかり。まさにロードゴーイングレーサー!
今でも2ストロークに魅せられた人々は数多い。もう二度と出てこない車両だからこそ、大事に乗り続けている人が多いのだ。
今から約10年前の20世紀の終わりごろ、2ストロークマシンは相次いで姿を消していった。レプリカに代表されるスポーツバイクはもちろん、オフロードから原付スクーターまで広く採用されていたエンジン形式は、あっという間に4ストロークエンジンへと切り替わってしまった。 もちろんその理由は年ごとに高まる排気ガス規制だった。小型・高出力で時代をリードした2ストロークエンジンだったが、ガソリンと一緒にオイルも一緒に燃やす2ストは、世界的に厳しくなる排気ガス規制をクリアできなくなると判断されてしまったからだ。 では、なぜいま過去の遺物ともいえる車両を振り返ってみようとするのか。それは、この先もう二度と2ストレプリカのような車両が世に出てこないからだ。小さな排気量で格上の車両と同等以上のパワーを出せ、乗れば誰もが感じるエキサイティングなフィーリング。2ストロークにしかない乗り味がそこにはあるのだ。 もしかしたらこの先2ストロークエンジンに乗れなくなる時代がくるかもしれない。そうなった時に後悔しないためには、乗るなら『いま』しかないのだ!
※相場価格はすべてGooBike編集部調べ
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