最近、国内市場を考えた二輪車が少しずつ増えてきている。国内ユーザーの僕らにしてみればまったくもってうれしい限り。スズキから発表された新型スクーター、ジェンマもそんな1台だった。日本だけしか考えていませんという開発コンセプトを聞いて、久しぶりにスカッとしたものの「でもそんなこと言ったって海外でも売るんでしょ?」とスズキ技術者に突っ込む僕。ところが戻ってきた答えは予想外だった。
「輸出したくても簡単にはできないでしょうねえ。海外の基準とか、まったく考えないでデザインしたから。輸出するとしたら、一からデザインのやり直しじゃないですか」。思わずジーンときてしまった。
二輪の大きなマーケットは北米やヨーロッパだ。採算のことを考えると、どうしてもあちらの都合を優先することになる。日本にいる僕らは、あんまり大事にされていないような気になることもあるわけだ。でも、今回は「おまえだけだぜ」と言いきった。うれしいじゃないか、そこまで僕ら、国内ユーザーのことを考えてくれているなんて。
ジェンマの特徴は、なんといってもそのデザインだ。ロー&ロングの車体に美しくデザインされたカバー類。最近のスクーターのなかでも、都会的なオシャレさに関しては飛びぬけてる。メーターの造形なんて見事。昼間はメッキ部分に景色が映り込むし、夜はキーを入れた瞬間、紫のライトが怪しくパネルを照らしだす。「きれいね」なんてタンデムシートの女の子が、うっとりとつぶやく声が聞こえそうな気がした。もっとも試乗時はだれもいなかったけど、乗り手にそういうイメージをさせる、っていうことのほうが、とっても大事なのだ(と思う)。
インパクトのあるデザインに比べると動力性は、いたって普通だ。今までのスクーターとまったく変りない。でもジェンマはこれでいいんだと思う。目を三角にしてセカセカ走るんじゃなくて、低くて長い車体が生み出す安定感に身をまかせ、景色を楽しみながらまったりノンビリ走れば、それでOK。
ちなみに最近、何人かの女の子たちとバイクでタンデムしたんだけど(仕事だよ、仕事)、彼女たちが言っていたのは、例外なくほぼ同じ。スピードはでなくてもいいから、オシャレなデザインで乗り心地がいいこと。それって…‥ジェンマじゃんか。
スーツとか、まったくバイクを感じさせない格好も違和感なさそうだし、高級なホテルとか、レストランに乗りつけても結構似合ってしまいそう。なんだか、とっても素敵な妄想が膨らむスクーターだった。
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